ご褒美の与え方
- テストで良い点を取ればご褒美をあげる
- 本を1冊読んだらご褒美をあげる
子どもの学力を上げるのはどちらでしょう?
結果を先に述べると、教育経済学者の中室牧子さんは『学力の経済学』(2015)の中で、ハーバード大学のフライヤー教授の「ご褒美の因果関係を明らかにする実験」の結果から、後者の方が子どもの学力を上げる効果があるとしています。
ご褒美の種類
中室さんは、ご褒美の与え方を次の2つの視点で分けています。
①「アウトプット」にご褒美を与える
②「インプット」にご褒美を与える
①の代表例は、学力テストや通知表の成績などを良くすることにご褒美を与えるというもの。
直接的に成績を良くすることを目標としている。
②の代表例は、本を読む、宿題を終える、学校にちゃんと出席する、制服を着るなどのことにご褒美を与えるというもの。
子どもたちは本を読んだり、宿題をしたりするようになるが、必ずしも成績が良くなるとは限らない。
なぜ、インプットにご褒美を与えた方が成績が良くなるのか
- 子どもたちにとって、何をすべきか、具体的な方法が示されていたから。
先の実験では、①のアウトプットにご褒美を与えられた子どもたちの学力は、(ご褒美を獲得しようとやる気を見せたにもかかわらず)まったく改善しなかったとされています。
②のインプットでは、「本を読む」ことにご褒美を与えられた子どもたちの学力の上昇が顕著だったそうです。
子どもたちのご褒美に対する意欲に差がないのであれば、ここまで結果に差が出てくるのはなぜでしょうか?
中室さんは次のように述べています。
「インプット」にご褒美が与えられた場合、子どもにとって、何をすべきかは明確です。本を読み、宿題を終えれば良いわけです。一方、「アウトプット」にご褒美が与えられた場合、何をすべきか、具体的な方法は示されていません。
ご褒美は欲しいし、やる気もある。しかし、どうすれば学力を上げられるのかが、彼ら自身にわからないのです。
これらのことから、ご褒美は「テストの点数」などのアウトプットではなく、「本を読む」「宿題をする」などのインプットに対して与える方が良いのでしょうね。
なぜ「アウトプットにご褒美」では学力は上がらないのか
先の実験の後、フライヤー教授が行ったアンケートの、アウトプットにご褒美を与えられた子どもたちの回答です。
質問
「今後もっとたくさんのご褒美を得るためには何をしたらよいと思うか」
回答
「しっかり問題文を読む」
「解答を見直す」
なぜ、「アウトプットにご褒美」では学力は上がらないのか、その理由が垣間見えますか?
これらの回答は、テストを受ける際のテクニックについての答えであり、本質的な学力の改善に結びつく方法まで考えが及んでいないのです。
逆に「インプットにご褒美」では、それ自体が何をすべきか明確にしてくれています。だから、学力を上げるのには遠回りのようなご褒美でも学力が上がったのでしょう。
「アウトプットにご褒美」で学力を上げるには
ある条件のもとではアウトプットにご褒美を与えても学力が改善することを、ニューヨーク市立大学のロドリゲス准教授が発見したそうです。
その条件とは…
「子どもの学習の面倒をみる指導者や先輩がいること」
つまり、「どうすれば成績を上げられるのかという方法を教え、導いてくれる人が必要」ということです。
まとめ
- ご褒美は、インプットに対して与えるべき
- アウトプットにご褒美を与える場合は、「勉強のしかた」を教え、導いてくれる人が必要
学校の現場でも、大人の私たちにとっては当たり前のことでも、生徒にとっては知らないことって多々あります。
「何をすべきか」が明確になるような声かけやアドバイスをし、その行動に対して生徒の言葉で振り返らせる(フィードバック)。時間のかかることかもしれませんが、それが有益だと信じて生徒と接してきました。
実際、何をすべきかが明確になった時、生徒の表情は晴々とします。まるで、迷子になった子が、どうすれば家に帰れるのかその方法を見つけたときのような、あの表情。
どんなご褒美の与え方であれ、何をすべきか、それを自分で考えられるようになるまでは、周囲の大人がそれを導いていかなければなりません。
子どもの明るい未来のために。
読んでいただき、ありがとうございました。